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エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

燃ゆる女の肖像

昨年のカンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞した『燃ゆる女の肖像』を観終わったあと、ヴィヴァルディの協奏曲『四季〈夏〉』を聴きたくなった。ボッティチェッリの『若い女性の肖像画』を見たくなった。そして、アブデラティフ・ケシシュ監督『アデル、ブルーは熱い色』(2013年)を再見したくなった。とうの昔に忘れていた恋愛のもの狂おしさが甦えった。『燃ゆる女の肖像』はそんな映画だった。 18世紀。フランスはブルターニュの孤島から物語は始まる。画家のマリアンヌはその孤島の館に住む貴婦人から、娘エロイーズの肖像画を依頼される。〈見合い写真〉ならぬ〈見合い肖像画〉。彼女は結婚を嫌がるエロイーズに正体を隠して近づき、密かに肖像画を完成させる。しかしエロイーズは「この絵は私に似ていない」と、意外にもモデルになると申し出る。キャンパスをはさんで見つめ合い、美しい島をともに散策し、音楽や文学について語り合ううちにふたりは激しい恋に落ちていく……。 相手をより深く知らなければ傑作は描けないといわれる肖像画の画家とモデルの関係性が恋愛に昇華していく過程が、きめ細かく濃密に描かれる。作品を豊饒にしているのは、官能的な性愛描写、斬新な18世紀の衣装、絵画の緻密な技巧、ヴィヴァルディの音楽だ。 『水の中のつぼみ』『ぼくの名前はズッキーニ』のセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけ、エロイーズを『午後8時の訪問者』のアデル・エネル、マリアンヌを『不実な女と官能詩人』のノエミ・メルランが演じている。 シアマ監督は、「この映画で美術や文学や音楽などのアートこそが、私たちの感情を完全に解放してくれることを描きました」と語っている。芸術こそ生きる情熱の根源であることを教えてくれる傑作だ。

20/12/3(木)

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