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水先案内人のおすすめ

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生きのいい日本映画を中心に、大人向け外国映画も

平辻 哲也

1968年生まれ 映画ジャーナリスト

エリカ38

「樹木希林・企画」と銘打たれた本作は、名女優・樹木さんが「浅田美代子が女性詐欺師をやったら面白いのよ」という一言から始まったものだという。この聞き慣れないタイトルからは「エリア51」という宇宙人マニアの聖地を連想してしまうが、これは、ヒロインの偽名「エリカ」と20歳以上偽称したという年齢「38歳」のことだ。 ワイドショーを騒がせた実際の事件が下敷き。物語は、投資詐欺の容疑でヒロイン、渡部聡子(浅田)がタイで拘束されたシーンからスタート。関係者の証言を挟むことで、テンポよく、彼女がどんな人間だったのかを描く。 ヒロインはセミナー受講者に向け、「アジアの恵まれない子どもたちのために学校を作りたい。そのための支援です」と雄弁に夢を語る。それは巨額詐欺の入口なのだが、「支援もできて、金ももらえるなら、いいなあ」と思ってしまう。筋は通っていないが、それくらい説得力がある。ヒロインは被害者から集めた金を湯水のように使い、グループの男(平岳大)と情を結ぶ一方、実の母を大切にしたりもする。 どれが彼女の真実なのか? おそらく全部なのだろう。よく「女は誰でも女優」「その場その場で役割を演じ分けている」などと言われるが、まさにヒロインはそんな女性である。 樹木さんは「浅田の本領が発揮されていない」と感じ、最高の役柄を用意したのだ。今年63歳の浅田は濡れ場にも挑戦するなど、その期待に応えた。これは浅田の代表作といって間違いない。 樹木さんも母親役で出演はしているが、これまでのような圧倒的なオーラは控えめ。脇に徹しながらも、それでいて存在感を見せるのはさすが。出番ラストのシーンは、まるでスクリーンから観客に別れを告げられているようだった。

19/6/6(木)

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