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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

アダムズ・アップル

2017年の知られざる北欧映画を紹介する映画祭〈トーキョーノーザンライツフェスティバル〉で絶賛されたデンマーク映画『アダムズ・アップル』が正式公開される。牧師を主人公に信仰への懐疑を問いかけるというテーマは、ちょっとイーサン・ホーク主演の『魂のゆくえ』を想起させる。だが、ポール・シュレイダーが深遠なる宗教性を真摯に追求したのとは対照的に、アナス・トマス・イェンセン監督は、一見、教会と聖職者の尊厳も、信仰の可能性もズタズタに踏みにじるような奇妙奇天烈なブラック・コメディ映画をつくりあげた。 ネオナチ思想を信奉するスキンヘッドの男が、辺鄙な田舎に建つ教会に仮釈放の身で送り込まれる。そこにいる二人はアルコールと暴力に塗れた、世捨て人のような敗残者の風情を漂わせている。敬虔な牧師は、実は酷薄な自らの現実を直視できずに、吹けば飛ぶようなポジティブ思考で武装している脆弱な存在だ。こうした常軌を逸したキャラクターを勢ぞろいさせ、チェスの駒を操るように、あれよ、あれよという破天荒な語り口で、大団円に持って行く作劇が見事だ。哄笑というよりも、笑いに一抹の苦さが宿るのは、北欧映画特有のメランコリーが底に流れているせいだろうか。むろん、そこが、この映画の美点でもある。

19/10/15(火)

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