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Tak

美術ブロガー

写真家ドアノー/音楽/パリ

超有名な写真《市役所前のキス》だけが独り歩きしてしまい、写真家ロベール・ドアノー(Robert Doisneau, 1912年4月14日 - 1994年4月1日)が他にどんなものを撮ったのか、知らずにいませんか。今回Bunkamuraで開催されている「ドアノー展」では、主役となるのはパリの街中の人々です。ただし、皆おしなべてあることに関わっています。それが音楽です。様々なシーンで音を奏で、歌を唄う人々。ドアノーの時代から現代に至るまでパリにはお店(下町のビストロや酒場)に、シャンソンを歌う所謂「流し」がいます。今ならスマホを取り出し、気軽に写真を撮ることはごく当たり前のことですが、20世紀半ばにおいて酒場でカメラを常に携えている人はまずいません。 ドアノーは、そんな時代にあって市井の人々の何気ない日常にレンズを向け多くの写真を残しました。今ではそれらはパリの古き良き時代を伝える語り部の役割を果たしています。第二次世界大戦が終わりようやくパリにも平和が戻ってきたことを、全身で表現するかのように、人々は街中に繰り出し、歌い、音楽を奏でそして踊りました。人類の長い歴史の中で、戦後から1970年代までのパリ市街が最も音楽に満ち溢れていたのではないでしょうか。とても幸せで、生きていることに人々が謳歌していた素敵な時代であったことをドアノーの写真がありありと伝えてくれます。観ていると自然にこちらまでハッピーになれます。そう幸せは人から人へ伝播するのです。 人から人へ伝染し苦しめるウィルスが蔓延しているこの状況下において、ドアノー作品は、観るだけで気持ちを楽にしてくれます。鬱屈した毎日に嫌気がさしたら迷わず、渋谷のBunkamuraへ行きましょう。また、展覧会には街中のアコーディオン奏者やダンスを楽しむ人たちだけでなく、ドアノーはプロの歌手たちとも積極的に交わり、その姿をカメラに収めた写真も出ています。シャンソン、オペラ、ジャズ、ロックといった幅広いジャンルの音楽家と関わりを積極的に持ったドアノー。彼の作品からは舞台での音楽家たちの顔とは違う「普段着の姿」が観て取れます。一方で、オペラ座での公演を撮影した作品も複数出ており、音楽好きにはたまらない展覧会となっています。 日本やフランスだけでなく、世界中がコロナ禍でもがいている今。音楽と人々の笑顔が満ち溢れたパリの「民俗学者」でもあったドアンーの写真は我々の心に潤いをもたらせてくれます。希望と共に。Bunkamuraザ・ミュージアムの会場のあちこちから喜びに溢れた、音楽が聴こえてくるかのようです。

21/2/21(日)

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