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水先案内人のおすすめ

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エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

シリアにて

死者数十万人、戦後最悪の人道危機ともいわれるシリア内戦の悲劇が、優れたドキュメンタリー映画の土壌になっているという皮肉を、どう考えたらいいのだろうか。 スマホで映像を撮り始めた女学生がやがて母となり、娘のために生きた証を残そうとカメラを回し続ける姿を捉えた『娘は戦場で生まれた』の衝撃はまだ記憶に生々しい。その他、戦災者を救う救助隊の男たちを追った『アレッポ 最後の男たち』、匿名の市民によって結成されたジャーナリスト集団の戦慄の活動に迫った『ラッカは静かに虐殺されている』など、シリア内戦を舞台にしたドキュメンタリー映画の傑作は枚挙にいとまがない。 『シリアにて』は、そんなシリア内戦の悲劇を、一般市民の女性の視点で捉えた24時間の密室劇。 シリアの首都ダマスカス。未だ内戦の終息は見えず、アサド政権と反体制派、そしてISの対立が続いていたが、ロシアの軍事介入により、アサド政権が力を回復しつつある。そんな中、戦地に赴いた夫の留守を預かるオームは、家族と共にアパートの一室にこもり、そこに身を寄せた隣人で幼子を持つハリマ夫婦とともに、何とか生活を続けていた。 ある日、ハリマの夫がレバノンへの脱出ルートを見つけ、今夜こそ逃げようとハリマに計画を話していた。脱出する手続きをするために、夫はアパートを出て行くが、外に出た途端、スナイパーに撃たれ、駐車場の端で倒れてしまう…。 監督、脚本を務めるのは、ベルギーの社会派監督フィリップ・ヴァン・レウ。2012年に友人の父親がアレッポの住居から3週間出られなかったという話を聞き、危機感を募らせて早急に映画化する手段を講じたのが本作となった。 凛とした立ち居振る舞いで、死と隣り合わせの日常におびえる家族を導く女主人を演じたのは、『シリアの花嫁』『ガザの美容室』の名女優ヒアム・アッバス。『判決、ふたつの希望』のディアマンド・アブ・アブードが、隣人ハリマ役を圧倒的な存在感で演じ、カイロ国際映画祭主演女優賞を獲得。 第67回ベルリン国際映画祭観客賞を受賞し、世界の映画祭で18冠を獲得した。 終わりの見えない悲劇と、生きる希望を決して捨てない家族の姿を描いた緊迫のフィクション・ドラマだ。

20/8/19(水)

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