Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

椿の庭

佐伯泰英の熱心な読者ではないが、『惜櫟荘だより』(2012/岩波書店刊)は面白く読んだ。岩波書店の創業者・岩波茂雄の熱海の別荘惜櫟荘(せきれきそう)が取り壊されることを知った佐伯が、私財を投じて解体・復元させるまでを綴ったノンフィクション・ノベル。海を望む高台の30坪の小さな家にこめられた文人の美と粋、四季折々の花が咲く庭の美しさにうたれた。 その『惜櫟荘だより』を思い出したのは、本作『椿の庭』の舞台となる庭と家が惜櫟荘を彷彿させるからだ。『椿の庭』は、サントリー、資生堂など数多くの広告写真を手掛けた写真家 上田義彦が、構想から15年の歳月をかけ完成させた映画監督デビュー作(脚本・撮影・編集も)。 庭と家だけのワンステージ映画。ヒロインは庭に咲く色とりどりの草木を愛でながら長年住み続ける家を守る絹子。演じる富司純子の和装と所作が、その家と庭に見事に調和していて、それだけで惚れ惚れと見入ってしまう。絹子の娘の忘れ形見である孫娘の渚に『新聞記者』のシム・ウンギョン。さらに絹子のもうひとりの娘・陶子に鈴木京香。3世代の女性のそれぞれの屈託が、家と庭の映像を通してほのかに浮きあがってくる。 ラスト、取り壊される家。「世の中にある人と住み家と、またかくのごとし」の一節がつくづくと想起される本作は、上田義彦監督の『方丈記』と言いたくなる秀作だ。

21/3/29(月)

アプリで読む