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水先案内人のおすすめ

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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

きみが死んだあとで

生きた時代も、場所も、読んだ本も違う、その名も初めて聞いた、50年も前に存在した18歳の少年を、例えば今の18歳が、関心の外に追いやらず、少しでも身近に感じることは、もはやできない相談だろうか。1967年10月、ベトナム戦争の拠点だった南ベトナムを日本が支援することに耐えられず、首相の訪問阻止を誓った大学1年生が、激しい闘いの中で命を落とす。彼は生きていればそのまま活動家になったかも知れない。だがこのドキュメンタリーは、その山崎博昭くんを、あくまでひとりの少年として描写する。 高校で同級や先輩だった人たちが、次々とキャメラの前に現れる。彼ら、彼女らは山崎くんのことをつぶさに語るが、「歴史」として語ろうとする人など誰ひとりいない。歳月の重みを端々に感じさせながらも、まるで17歳や18歳に戻ったかのような語りが印象に残る。 やがて残忍なものに変質してゆく学生運動を、あの季節の最初に去ってしまった山崎くんならどう見ただろう。この映画は、後半でその視点を持とうとして、上映時間が3時間20分になった。だが、重層的な証言の組み立てはむしろ魅力であり、端正なカメラワークもあいまって長さをまるで感じさせない。お勉強ではない、ノスタルジーでもない、むしろ青春の持つ“普遍”を信じて作られた映画と呼ぶべきだろう。

21/3/27(土)

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