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吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

市川崑 初期ライト・コメディの誘惑

『あの手この手』(3/27、3/31)  新文芸坐「市川崑 初期ライト・コメディの誘惑」(3/25〜3/31)で上映 市川崑の全盛期は大映時代(1956〜64)と言われることが多いが、大映と専属契約を結ぶ4年前に、当時所属していた東宝から大映京都撮影所へ出向して撮った作品が存在する。それがラジオドラマ『アコの贈物』を原作にした『あの手この手』。 助教授をしながら小説を書く夫(森雅之)と、婦人運動に取り組む妻(水戸光子)の家へ、姪のアコ(久我美子)が家出して転がりこんでくる。子どものいない夫婦が我が子のように可愛がるアコとの共同生活が軽妙洒脱に描かれている。 タイトルからして、日本語題の下に英語題が出るという、モダニスト市川崑らしいものだが、東宝ではこうしたテイストを出すのは容易だったが、時代劇の多い大映京都撮影所では苦労したようだ。実際、紅茶茶碗ひとつとっても、市川の満足がいくものがなかったという。スチール撮影でも日本式のポージングではダメだと海外の雑誌を持ってこさせて真似させたほどで、美術監督になって間もなかった西岡善信は本作ですっかり市川に魅せられ、その後も『炎上』『破戒』といった大映で市川が撮った代表作で組み、晩年の『どら平太』『かあちゃん』に至るまで市川作品を支えた。 この時期の市川崑は実験精神があふれているだけに、アコの退屈した表情に、「アコのお留守番」「アコは手持無沙汰だ」といったテロップが横にスクロールするという脱ドラマ的手法が試みられている点も見逃せない。 もうひとつ注目してもらいたいのがラストシーンの処理。詳しくは言わぬが花だが、凡百の監督なら思い入れたっぷりに情緒過分で見せる描写を省略し、アコをめぐる喧騒が終わった後の寂寥感を印象深く描き出し、忘れがたい印象を残す。

21/3/26(金)

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