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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

線の迷宮〈ラビリンス〉Ⅲ 齋藤芽生とフローラの神殿

「線」による表現の魅力と可能性を探る企画展の第3弾で、今回は細密な描写で日常生活の縁に漂う「闇」を描き出す齋藤芽生の個展となった。展示は、齋藤が影響を受けた、各植物が自生する自然環境が描き込まれた19世紀の異例の植物図鑑『フローラの神殿』と、「デマワリ」「監禁バラ」など齋藤が生み出した人間の心理を突く毒をもった架空の植物の『毒花図鑑』(東京藝術大学の学部生時代の作品)の共振から始まる。続く『徒花図鑑』『晒野団地四畳半詣(さらしのだんちしじょうはんもうで)』と、なんともいえない濃密な世界観に圧倒される。 学生時代の作品から2018年の「暗虹街道」に至るまで、齋藤は、まるで有能な外科医が操る鉗子のように、昭和という近代社会や人の心の奥底に澱のように淀む、昏い生活感情を秘めた風景を、精密な眼差しで照射する。高度経済成長期の象徴である巨大団地、川辺の野原、闇に浮かび上がる街道沿いの行楽施設やドライブイン、あるいは男女の性と生が照らし出される架空の「愛密村」。団地の窓から見える室内には、孤独と呪詛と欲望に満ちた人の生が充満している。息苦しいほどの密度をさらに高めるのは、生彩溢れる濃密な描写力と細部に至るまでゆるぎなく画面を構築する構想力だ。 昭和の名残が亡霊のように立ち上る妖しい世界を忌避したい人もいるかもしれない。だが、ここに出現する異界は遠い彼岸なのではない。近代社会の綻びの跡をたどりつつ、失われ行く時代への哀悼がとらえた、あくまでも此岸のヴィジョンなのだ。忘れられつつあるかつての生活風景を、あなたはどのように見るだろうか。

19/11/21(木)

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