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ノージャンル、ノーボーダー。個人的アンテナに引っかかるもの
佐藤 久理子
パリ在住、文化ジャーナリスト
皮膚を売った男
21/11/12(金)
ル・シネマ
以前『ザ・スクエア 思いやりの聖域』という美術界を舞台にしたカンヌ映画祭のパルムドール受賞作があったが、本作はそれに勝るとも劣らぬ問題作。 シリア内戦で難民となった主人公はある日、『ファウスト』の悪魔の囁きのような芸術家の甘言に乗せられ、自らがキャンバスとなり生身のアート作品として海外で展示される。離れ離れになった恋人に会いたい一心の決断だったが、それはこれまで以上の拘束の始まりだった。 アート界ならあり得る話だと思ったら、本当にあった実話とか。難民という社会的テーマに、現代美術市場に対する痛烈な風刺を織り込み、エンタテインメントに仕立てているところが心憎い。最後のオチも爽快だ。 もしもこの主人公がナイーブに思えるとしたら、それは我々が恵まれた資本主義社会の、守られた側にいるからではないだろうか。
21/11/11(木)