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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

アルプススタンドのはしの方

『舐める女』『悦楽交差点』などの独特のフェティッシュな味わいを持つ秀作で知られ、すでに200本を超えるエロVシネ、ピンク映画で、一部に熱烈なファンを擁する城定秀夫監督が満を持して放った、なんともみずみずしい青春映画の傑作だ。 原作は兵庫県東播磨高校演劇部が上演し、全国高等学校演劇大会で最優秀賞を獲った戯曲。昨年、浅草で上演された際のキャストがそのまま映画でも起用されている。 高校野球夏の甲子園の第一回戦。その応援で盛り上がっているはずの観客席の隅っこの空間にほぼ舞台は限定されている。そこに集まってきた元野球部選手、挫折感を背負ったふたりの演劇部員、クラス一の優等生が、意想外な形で交差し、離散し、結びついていくドラマを、野球観戦というドキュメンタルな時間を介して紡いでいく“語り口”がまず優れている。野球の試合のシーンをワンカットも挿入しない潔さも、逆に映画的な果敢な試みといえよう。昨今のキラキラ青春ものに氾濫している、安易でベタな、汗臭い絶叫調のセリフ回しも、白々しいまでのドラマチックに盛り上げようとする過剰な作劇も、ここにはない。すべては入念で、抑制の効いた演出によって、青春時特有のとりとめのない、ささやかな、しかし、きわめて切実な感情をあざやかに掬い取っているのだ。とくに小野莉奈、西本まりん、中村守里の女子高生三人組の、どんどん破壊的なまでに魅力を増してゆくアンサンブルがすばらしい。こういうクラシカルな王道の演出は、ある意味では、往年の恩地日出夫の『伊豆の踊子』や『めぐりあい』を彷彿させるものがある。

20/7/23(木)

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