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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

パブリック 図書館の奇跡

主人公はあまり風采の上がらない中年男性で仕事は公立の図書館員。なにやら人には言えない過去もあるようで……と紹介したら、誰も彼が本作品のヒーローになるとは信じないでしょう。ですが、ある日ホームレスの集団に図書館ワンフロアを占拠されるという大騒動に突如巻き込まれたひとりの図書館員の奮闘を最後まで見届ければ、そうせざるを得なかった彼の人権感覚と職業意識の高さを合わせ、その決断に拍手を送ることでしょう。 主演は構想11年のエミリオ・エステベス監督自身で、ロサンゼルス・タイムズに掲載された、ある公共図書館元副理事によるエッセイから着想を得たそうです。 オハイオ州シンシナティの公共図書館員スチュアートは常連利用者のホームレスから「今夜は帰らない。ここを占拠する」と告げられます。大寒波のため路上で凍死者が続出しているのに行き場がないというのがその理由でした。70 人に及ぶホームレスの事情を察したスチュアートは行動を共にし3階出入り口を封鎖します。当初は満室のシェルターに代わる避難場所を求めてのやむを得ない選択でしたが、市長選出馬を目論む検察官の高飛車な態度やフェイクニュースも厭わないテレビ局の過激報道によってスチュアートは犯罪歴まで公開されてしまいます。追いつめられた彼とホームレスたちの下した奇跡の一手とは……。 この作品の見どころは以下のような宣告を図書館のアンダーソン館長にさせているところです。当初はスチュアートの行動に懐疑的だった館長が「図書館はこの国の民主主義の最後の砦だ」と訴え、強硬派へ反旗を翻すように封鎖の中に入って隊列を共にします。この発言は台風の災害時に避難場所のスタッフがホームレスの被災者受け入れを拒否したことを批判され区長が謝罪した日本の事例を思い起こさせます。世界の各地で貧富の格差や政治的分断が進む中で、人々の胸中に「あなたに弱者を救済する道徳心はありますか?」という問いかけをしているのです。もはやアメリカだけの出来事ではありません。 スリリングな展開があるかと思えば情感あふれる会話も織り込まれるヒューマンドラマ。しかも声を上げることの大切さをベースに据えた展開は、ラストの奇想天外な解決策と合わせ心地よい余韻に浸らせてくれるでしょう。

20/7/15(水)

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