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水先案内人のおすすめ

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一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています

相田 冬二

ライター、ノベライザー

ポルトガル、夏の終わり

できることなら、誇り高く死にたい。 きっと誰もがそう望んでいるだろう。 だが、なかなかそうはならない。 老いるほどに、かつてあったはずの自分なりの気高さやプライドは落下していき、みっともなさが浮き彫りになっていく。 しがみつく。 過去に想いを馳せ、孤独を噛み締め、郷愁の中に自閉し、今も未来もどうでもよくなり、生きることに固執することで、生きることそのものを汚し、己の人生から尊厳を剥奪していく。 自ら。 そんな今際は嫌だ。 だが、どんなに誇り高く冷静に末路を演出しようとしても、すべてを自分ひとりでまかなうことはできないから、どこかで齟齬が生じてしまう。 では、どうやって、折り合いをつければいいのか。 この映画は、ひとりの女優が、誰にも秘密のまま、生前葬をおこない、その参列者たちのその後の面倒をみようとする物語だ。 彼女は露悪的な生き方はしてこなかったし、逆にストイックな暮らしとも無縁だった。 人生にもキャリアにも自信があり、それを壊さない自負もある。 だが、現世には、思いどおりにならないことがあるのだ。 女優はそのことを知る。 それだけの作品だと言ってもよい。 イザベル・ユペールが、人間はいくら誇り高くあっても叶わぬものがあるという真実を体現して圧巻だ。

20/8/13(木)

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