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水先案内人のおすすめ

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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

齋藤 芽生 最涯商店

「寝乱麗美容院」「深山幽谷不動産」「赤赤堂火球店」「洋菓子船波瀾丸」「迷者不問Q憩室」「漂流絵具 風化堂」......。人の気配が感じられない街でひっそりと営業中の奇妙な名称の商店は、貴方や私が住む街のそれとは似ても似つかない。誰かの訪れを待つ8つの「最涯商店」。その店先は、この世ならぬ世界への扉であるかのようなのだ。 各店舗のうたい文句も謎めいている。たとえば、「寝乱麗美容院」は「その結髪を 解かせてください 見栄も化粧も ぬぐい去る ありのままの 貴女の夜明け」、「迷者不問Q憩室」は「誰にも訊かずに 道に迷い 自問自答を 重ねるあなたに 心ゆくまで 考える座席を」という具合。美容院本来の機能は転倒し、休憩室の床に転がる椅子は誰かが大急ぎで立ち去ったかのような不穏な空気を醸し出す。 各店舗の店頭ディスプレイにも目を奪われる。たとえば、山奥での居住を勧める「深山幽谷不動産」では巨大なハイヒールの内側を森が埋め尽くし、ハイヒールの周囲には庭付き一戸建ての模型がずらりと並ぶ。また「洋菓子船波瀾丸」では、ガラスケースに収まった船形の苺ショートケーキの向こうに、海を航行中の苺ショートケーキ製の巨大な船が。奇想天外な発想と緻密な描写があいまって、現実的でありながら現実的ではない濃密な異界が立ち上がる。 今回の展覧会は初の母娘コラボレーション展でもある。羽織や袱紗、刺繍を施した傘などの古裂を元に画家の母親が手作りしたグッズや、画家自身が集めたビーズ類を使ったアクセサリーも販売されている。これらの品々もまた最涯商店の商品であるという趣向が楽しい。乃木坂のビルの一室に出現する齋藤芽生ならではの異世界体験をぜひ!

20/10/3(土)

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