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一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています

相田 冬二

ライター、ノベライザー

夏時間

わたしたちは、たとえば映画体験に対して、感情移入という言葉を用いるが、実際のところは、自身の記憶を投影しているだけのことがほとんどだと思う。 キャラクターの感情に移入するのではなく、己の思い出を、フィクションの中で起こる出来事と結びつけて、うまくシンクロした場合、愛着がわき、特別なものになる。それをとりあえず感情移入と呼んでいるにすぎない。 ホームドラマへの接し方はとりわけ、その傾向が強い。自分の家族とのメモリーを、虚構の家庭劇に仮託しているのだ。無意識のうちに。しかし、意識の上では、感情移入のつもりになっている。 この映画の静かなる凄みは、感情移入という名の投影ではなく、観る者を、この世界に住まわせる点にある。 つまり、観客が観客の現実の家族を参照するのではなく、ほんとうは実在しない家族のひとりになったと錯覚する。ふしぎでリアルな親近感が、ここにはある。この物語に登場する、父親、叔母、弟、祖父が全員、近しい存在として、深層に植えつけられる。 さまざまな喪失と無縁ではない、ひと夏のストーリーは、特定の思い出の反芻のためではなく、生まれたての思い出をキャラクターたちと一緒に育んでいくためにある。 このかけげえのない共有感。

21/2/25(木)

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