“デー”という、巨額の当選金が手に入る“闇くじ”に孤児の少年ロムが地方にいると聞いた両親を捜すための資金を稼ぐために挑む姿をスタイリッシュな映像と街の臭いが伝わってきそうなくらいにリアリズムを追求したタッチで描いた『走れロム』は抜群によく出来た、また最高におもしろい映画だ。社会主義国家のベトナムにおいて顕在化させたくない“闇くじ”を描いたことで検問が入り、修正を余儀なくされながらも、公開されるとロングランヒット中だったクリストファー・ノーラン監督の超大作『TENET テネット』を興行成績で上回る大ヒットになり、ミニシアター文化のないベトナムでインディペンデント映画が商業的にも成功を収める一大センセーションを巻き起こしたのも納得できる。監督はこれが長編デビュー作ながら世界の映画祭で上映されたことで熱い視線を注がれている31歳のチャン・タン・フィ。ほとばしる疾走感と切れ味のいい演出に唸らされた。

21/7/7(水)