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水先案内人のおすすめ

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一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています

相田 冬二

ライター、ノベライザー

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

ただの長尺版ではない。 こちらが決定版でもない。 3年前に公開された『この世界の片隅に』とは、ある意味、別な作品である、と断言することも可能だと思う。 前作が、主人公・すずの内面を地盤として「戦時下でも存在しうる暮らし」を見つめていたとすれば、本作は、すずを狂言回しとして「容赦なく日常を直撃する戦争」を暴き出す。インパクトは強烈だ。 わかりやすい比喩を用いるなら、スピルバーグの『シンドラーのリスト』と『プライベート・ライアン』ほどの開きがある。実に過激な「枝分かれ」である。 誤解をおそれずに言えば、これは紛れもなく「戦争映画」だ。よって、夫・周作の像も、娼婦・リンのフォルムも、複雑化し、観る者の人生経験が確実に試される。すずもまた「どこか少女性をひきずった存在」ではなく、「生まれながらに女でしかない女」として、物語の上に立ちつくしている。 のんのボイスアクトは、さらに力強さを増した。既に知っているはずのクライマックスさえ、まったく違って見えるほど、彼女の「演技」は、わたしたちの深層を串刺しにする。 もはや、さめざめと泣いている場合ではない。日本から、ここまで苛烈な戦争映画が誕生したことに、動揺するしかない。2019年を締めくくる、怒涛の傑作。

19/12/16(月)

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