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水先案内人のおすすめ

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日本映画注目作を中心に、旧作上映まで幅広く

樋口 尚文

1962年生まれ 映画監督、映画評論家

ドライブ・マイ・カー

カンヌ国際映画祭でも話題となって脚本賞を得た期待の作品だが、特筆すべきは(これまでの濱口監督作品も然りだが)傷心の演出家兼俳優が広島に赴いて、オーディションで選別した俳優たちとともに公私のつきあいを重ねながら、なんとか新たな公演を実現させていくまでの、ごくなにげない日々のやりとりの積み重ねがかたときも目をはなせないほど素朴に面白いということだ。その根拠は脚本、演出の超俗と洗練で、描かれるものはほぼ劇的な要素もない静謐な日常なのに、繊細に紋切型が排除されてゆくので「いったい主人公はどうなっていくのか」というスリリングさが全篇持続する。こうした映画世界にあっては、ささやかな心理のさざなみさえもが、鬼面人を嚇す派手な展開や仕掛けよりぐっと観る者を惹きつけてやまないのである。掛け値なしにまず“面白い映画”である。

21/8/16(月)

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