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水先案内人のおすすめ

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生きのいい日本映画を中心に、大人向け外国映画も

平辻 哲也

1968年生まれ 映画ジャーナリスト

はるヲうるひと

佐藤二朗といえば、ドラマでのコメディリリーフぶり、CMやクイズ番組でも明るいキャラクターが人気だ。しかし、この映画を観れば、そんなことは彼の一端にしか過ぎないことが分かる。佐藤は演劇ユニット「ちからわざ」の主宰者。そのキャリアは演劇からスタートし、数々の映画出演へとつながっており、演劇・映画の人なのだ。 本作は2009年、14年に上演した舞台演目の映画化で、原作・脚本・出演もこなした監督作の第2弾。その題名の通り、春を売る人、売春話というのだから、恐れ入った。舞台はいたるところに置屋がある閉塞された島。凶暴凶悪な性格の長男・哲雄(佐藤)が置屋を仕切り、腹違いの次男・(山田孝之)と妹いぶき(仲里依紗)や遊女たち(坂井真紀ら)は兄の横暴に怯えながら暮らしていた。ある日、哲雄の振る舞いは一線を超えていく……。 レイティングはR-15+(15歳未満は観覧禁止)。今はジェンダー問題が強く叫ばれている時代だ。目をしかめる人もあろうが、佐藤はそんなことを気にも止めない。「自分がいいと思った役者のすごい芝居を観てみたい」という欲求がある。すごい芝居を引き出すためには、こんな変わった物語と舞台装置が必要だったのだろう。 山田孝之は佐藤が「日本最高峰の俳優の一人」と呼ぶ俳優。真っ先にオファーしたが、1度目は断わられた。「話は面白いと言ってくれたんですが、セリフが関西弁だったんですよね。孝之は関西弁の役は関西の人間がやるのがいい、という考えだった」と佐藤監督。山田からの「標準語にしてください」との要望を受け、設定を変えた。3人のきょうだいは標準語で、遊女たちにはいろんな訛りがあり、各地方から集まっていることが分かる。 閉塞的な架空の島の物語なのだが、観ていると、それがデフォルメされた日本、あるいは東京のようにも見えてくる。撮影されたのは2年前だが、コロナ禍の今と重なって見えるのだ。その中で人間模様がうごめき、やがて、意外な展開を見せていく。 けっして明るい話ではなく、ハッピーエンドでもないのだが、最後は不思議と元気が出る。俳優出身の監督は少なくないが、その中でも異端の才能といえる。2019年に第35回ワルシャワ映画祭の1-2コンペティション部門(長編監督2作目までの部門)に出品され、第2回江陵(カンルン)国際映画祭(2020年11月5〜7日)では最優秀脚本賞に輝いたことは頷ける。

21/6/1(火)

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