Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

注目されにくい小品佳作や、インディーズも

吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』公開まで待ちきれない! これがゴジラだ!怪獣だ! 新文芸坐 大ゴジラまつり

『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(5/21) 新文芸坐 特集「『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』公開まで待ちきれない! これがゴジラだ!怪獣だ! 新文芸坐 大ゴジラまつり」(5/18~5/24)で上映。 映画館で幼い子どもたちが泣き叫ぶ光景に出くわしたことがある。親の肩に顔を埋め、スクリーンから目を背けて「怖いよ」と暗闇で叫んでいるのだ。つい十数分前まで、同じ劇場で『ハム太郎とっとこうた』を場内で子どもたちが愉しそうに合唱していたとは思えない阿鼻叫喚ぶりである。 18年前、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001/以下『GMK』)を上映中の出来事だ。併映が『劇場版 とっとこハム太郎 ハムハムランド大冒険』だったせいもあるのだろうが、それにしてもこの落差には驚かされた。平成ゴジラシリーズでも『ゴジラvsモスラ』(1992)の頃から観客の低年齢化が進んで幼児が多かったものの、こんな凄惨な状況を目にしたことはない。『GMK』特有の現象と言うべきだろう。それもそのはず、本作は平成ガメラ3部作を撮り終えた金子修介監督がミレニアムゴジラシリーズへ登板した伝説的な1本でもあったからだ。『ガメラ3 邪神覚醒』(1999)で怪獣の出現に伴う人的被害という怪獣映画のタブーに挑み、渋谷の壊滅シーンでセンター街に集う若者たちが火炎に巻き込まれて吹き飛ばされる姿を描いていただけに、『GMK』がその延長上の視点で作られたのは当然ではある。それが結果として冒頭に記した惨事となり、遂には泣いた子どもを抱えた親が途中退席する姿まで見られた。そのせいか劇場には刺激の強い描写がある旨を記した注意書きが提示されるようになったが、第1作の『ゴジラ』(1954)以来となる恐怖映画としてのゴジラが復活した。 といっても、露骨な残虐描写があふれているわけではない。むしろ『ガメラ3』の様な直接的な描写は抑制されており、怪獣によってもたらされる人間の死を間接的に描くように留意されているが、そのせいでいっそう恐ろしく感じてしまう。例えば病室で動けない女性が窓ごしにゴジラが通過する様子を悲壮な顔で眺めているシーンでは、何とかやり過ごせたと安堵した次の瞬間、ゴジラの尾が病室を直撃して病棟は倒壊する。こうした描写を成立させるには本編カットと特撮カットが緻密に合致していなければサスペンスは生まれない。本作では、病室の窓越しにゴジラが進むカットをミニチュアで作り込んで描くなど、平成ガメラの特撮スタッフが(ゴジラ映画の経験者も多い)参加していることもあって、特撮がミレニアムゴジラシリーズの中でも突出している。モスラ、キングギドラといった使い古された人気怪獣たちも〈護国聖獣〉として従来とは異なる設定で登場し、クライマックスの横浜決戦での肉弾戦には瞠目させる。 もっとも当初の予定では、本作は『ゴジラ×バラン・バラゴン・アンギラス 大怪獣総攻撃』と題して、モスラの役どころをバランが、キングギドラの役どころをアンギラスが担う予定で脚本が作られ、検討用モデルが製作されるところまで進んでいた。それぞれ東宝の怪獣映画でかつて重要な役を担った怪獣だが、平成ゴジラシリーズ以降は再登板の機会がなく、四足歩行の獣とゴジラの戦いという、近年の怪獣対決とは一線を画すものが想定されていただけに、東宝側からのメジャーな怪獣を出演させるべきという要請によって役者交代となったのは残念でならない。唯一、完成した映画に残留したバラゴンとの戦いは、当初の企画に近い形で描かれており、屈指の名場面になっている。そうした製作時の混乱が傷にならない完成度を誇る傑作となっただけに、同じくモスラ、キングギドラが登場する『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』にも優に拮抗するのではないかと想像している。その再確認の意味でも、この機会に新文芸坐の大きなスクリーンに広がるシネマスコープで再見したいものだ。

19/5/21(火)

アプリで読む