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ノージャンル、ノーボーダー。個人的アンテナに引っかかるもの
佐藤 久理子
パリ在住、文化ジャーナリスト
名もなき生涯
20/2/21(金)
TOHOシネマズ シャンテ
『ツリー・オブ・ライフ』に続く、近年のテレンス・マリック監督作品における傑作と言いきろう。第二次世界大戦でナチスに魂を売ることを拒否した男の運命が、オーストリアの壮大な山々を背景に語られる。 実話の映画化だが、驚くべき人物の伝記という以上に、マリック特有の神秘的な自然と人間を対比したヴィジョン、まるで天の存在(神とも言える)が彼らを俯瞰しているような映像がもたらす厳粛な空気が、ドキュメンタリータッチの作品とは一線を画した詩情と、本作のテーマを強調する。 それだけではない。ラブストーリーとしても本作は鮮烈な問いかけをもたらす。たとえそれが永遠の別れを意味するとしても、愛する相手の意志を尊重し、同意することができるか。その問いは、観終わったあとも深く、深く、われわれの中に残り続けるだろう。
20/2/20(木)