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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

43年後のアイ・ラヴ・ユー

ブルース・ダーンといえば、『ひとりぼっちの青春』の敗残ランナー、『マシンガン・パニック』の剛腕な刑事、『サイレント・ランニング』の寡黙な植物学者というように、多彩で、一筋縄ではいかないさまざまなキャラクターが思い浮かぶ。ハリウッドの衰退期、ニューシネマ、ニューハリウッド派の台頭、と絶えざる変化を遂げてきたアメリカ映画において、ヒロイックな主役とは一切無縁な、渋い、あるいはアクの強いバイプレイヤーとしての個性が光っていたという印象がある。それが近年、老境を迎えて、益々、得難い、いぶし銀のような味わいをにじませた名演によって評価が一挙に高まっているのは嬉しい。 『43年後のアイ・ラヴ・ユー』では昔の恋人であった舞台女優がアルツハイマー病を患って施設に入ったという記事を見つけ、再会を願うあまりに、自らもアルツ患者になりすまして入居してしまう現役を退いた演劇評論家を演じている。エキセントリックな笑いを喚起させがちな素材だが、マーティン・ロセテは、ガーシュインのスタンダードナンバー『エンブレイサブル・ユー』を効果的に使いながら、ウェルメイドな正攻法の演出で、ブルース・ダーンとカロリーヌ・シロルの老いたる恋の行方をロマンティックに謳いあげている。自己治療行為としての、そして記憶の蘇生のための演劇というモチーフも興味深い。

21/1/14(木)

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