東日本大震災から10年後の仙台で、全身を縛られ“餓死”させられるという不可解な殺人事件が連続！ 本作はその犯人と猟奇的殺人の動機を探るミステリーのスタイルを取りながら、いまもなお癒えていない震災の傷跡や被災者の痛み、生活保護というシステムの矛盾や問題点を生々しく炙り出していて、多くのことを考えさせられる。それが映画の中の絵空事にならず、観る者の胸に迫るものになったのは、限界集落の問題に迫った『楽園』などの作品で事件の中の人間を歪曲させずに描き続けてきた瀬々敬久監督の眼差しの確かさとキャスト陣の嘘のない芝居によるところが大きいだろう。容疑者役の主演・佐藤健はもちろん、被害者役の永山瑛太、緒形直人まで、ああ、こういう人いるいるって思わせてくれる絶妙なリアリティ。彼らの言動のひとつひとつが濃密なドラマと一緒に脳裏に焼きつき、私たちは未だ終わっていない現実の問題、実際の被災者の方々の拭いきれない想いをいま一度じっくり噛み締めることになるのだ。

21/10/5(火)