イラン人監督、アスガー・ファルハディ作品は、全てにおいて日常の中に潜む人間の闇に巻き込まれた人の心の動きを丁寧な脚本と演出で見せてくれます。しかもどの作品も、主演ではない登場人物の人柄さえも汲み取れるのだから、映画監督としての才能は、映画賞受賞というかたちで、世界的にも太鼓判を押されております。だからこそ、難易度の高い群像劇ほど才能を発揮し、人と人との感情の絡まりが悪化するほど、事件はより難解になることを知っているのでしょう。まるでアガサ・クリスティ作品のような、誰もが怪しく思える人間描写。しかも、私生活で夫婦のペネロペ・クルスとハビエル・バルデムが、夫婦役では無く、感情が絡まりすぎた関係を演じているのも好奇心を煽る。じわじわと追い詰められ、切り札を出す瞬間に、それぞれの本心が見えてくる。ファルハディ作品の中でも特出してエンタテインメント性が高いので、とても観やすいのであります。素晴らしい脚本と素晴らしい演技で、安心して没入出来るミステリーが誕生。

19/5/28(火)