Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

洋画、邦画、時々アニメ 映画で人生が変わります

堀 晃和

ライター&エディター。記者歴27年、元産経新聞文化部長。映画と音楽と酒文化が守備範囲。

おらおらでひとりいぐも

読んでから見るか、見てから読むか。観ている最中に、一世を風靡したこの宣伝文句が頭に浮かんだ。ただ、原作小説を読んで梗概を知った後でも、この映画は次の展開が楽しい。主演の田中裕子がどんな表情や仕草を見せるのか。大女優の一挙一動に魅了された2時間17分だった。 75歳の桃子さん(田中)は夫に先立たれ、子供たちも独立して一軒家で一人暮らしの日々。起床後は朝昼晩とも自宅で食事をとり、居間で独り言をつぶやく。時には、自分の“心の声”が人の姿になって現れる。全部で3人の心の声は「おらだばおめだ、おらだばおめだ」と語りかけて……。 桃子さんの日常は孤独だ。近所を散歩したり、図書館に行ったり。高度成長期に東北から上京し、住み込みで働く食堂で出会った夫との思い出に浸ることも。無心に来た娘とは心を通わせることができない。そんな心情、記憶、現在の挿話が絡み合い、単調な生活の中にも1人の女性の豊かな人生が浮かび上がる。 沖田修一監督は、寂しさと慈愛に満ちた田中裕子の眼差しをとらえることで、心の陰影をドラマチックに描き出した。桃子さんの若い時代を蒼井優が演じている。娘役は田畑智子。日本の映画界を担う女優の競演も魅力だ。

20/11/5(木)

アプリで読む