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水先案内人のおすすめ

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平辻 哲也

1968年生まれ 映画ジャーナリスト

名も無い日

写真家として20年以上のキャリアを持つ永瀬正敏が写真家役で主演した三兄弟の物語。永瀬が映画で写真家を演じるのは4度目だ。 1本目の宮沢りえ主演の『ゼラチンシルバーLOVE』は写真家の操上和美の監督作、2本目の小泉今日子との共演作『毎日かあさん』は西原理恵子の同名コミックが原作で、西原の夫で戦場カメラマンの故・鴨志田穣役、3本目は河瀬直美監督が目の病気で視力を失う写真家を描いた『光』だ。 そして、本作は、20代で渡米した写真家で、高倉健のドキュメンタリー映画『健さん』(16年)や樹木希林企画、浅田美代子主演の『エリカ33』(19年)でも知られる日比遊一の監督作品。なんと4本のうち2本が写真家の監督作品。この事実だけでも、いかに永瀬が俳優として、写真家として信頼されているかが伺える。 主人公は25年間ニューヨークで活動する達也。ある日、次男の章人(オダギリジョー)の訃報が飛び込み、名古屋に帰郷。達也同様、三男(金子ノブアキ)も現実を受け止められない。章人は両親亡き後の実家で孤独死したというのだ……。 監督の実体験の映画化だ。監督の思いを受け取った永瀬が演技者として体現する。達也はカメラを持って思い出の地をめぐり、ファインダー越しにその風景を見るが、シャッターを切ることができない。写真家がシャッターを押せない、というのはどういう心境か。その時の表情がなんともせつなく、胸を打つ。 映画は、主人公が、命日を特定することもできない弟の“名も無い日”を受け入れ、一歩踏み出す物語。監督個人の思いは普遍の物語として昇華されている。映画を観ると、大切な誰かと連絡を取ってみたくなるはず。コロナ禍で、物理的、精神的なディスタンスが注目されている今こそ、観て欲しい作品だ。

21/6/9(水)

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