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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

記憶の戦争

耳の聞こえない両親をあたたかな目線で描いた『きらめく拍手の音』のイギル・ボラ監督が次に選んだのはベトナム戦争に派兵された韓国軍による民間人虐殺を追ったドキュメンタリー。 映像は虐殺が起きたとされる1968年2月12日から半世紀を経た現在のベトナム中部フォンニ・フォンニャット村を映します。静かな農村風景が広がりますが、ここで非武装の民間人69〜79人が一方的に虐殺されたとは信じがたいことです。その生き証人の一人グエン・ティ・タンさんは8歳の時に韓国軍に家族を殺され孤児となりました。その記憶を話すうちに涙を流し聴き取りはたびたびストップします。タンさんは「この話をする人が私しか残っていないので続けなければ」と決心を語ります。 退役軍人らは事件を認めていませんが「べトコンと(それ以外の)良民の区分けはしていた」「多少の民間人被害はどの戦争でもある」と開き直る回答が多く、中には「謝罪しろだって。じゃあ捕まえて殺さないと」という超強硬派もいて記憶を調整する話し合いなどは期待できそうもありません。 同村では陰暦の2月になると村中にお香の匂いが漂います。残されたものが慰霊碑の前で犠牲者の霊を慰める恒例の行事。わが国でも戦争への反省が伝わりにくくなったと言われます。戦争のむなしさや残酷さを顧みる作品です。

21/10/30(土)

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