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中川 右介
1960年生まれ、作家、編集者
ホロコーストの罪人
21/8/27(金)
新宿武蔵野館
この映画よりも先に、『アウシュヴィッツ・レポート』というスロバキア映画も公開される。 2作を観ると、ナチスのホロコーストについては「語り尽くす」なんてことはありえないのだと、よく分かる。ユダヤ人はヨーロッパ各国にいたし、ナチスヨーロッパ全土を征服しかけたので、各国ごとにホロコーストに加担した人、巻き込まれた人はいるのだ。 この『ホロコーストの罪人』はノルウェーを舞台にしている。ノルウェーとデンマークは中立国だったが、ナチス・ドイツは1940年4月に奇襲攻撃し、デンマークはすぐに降伏、ノルウェーは6月に降伏し、以後、ドイツに占領される。そしてナチス・ドイツの方針に従い、ノルウェーの国家秘密警察は国内のユダヤ人を絶滅収容所へ移送する。その「罪」を告発する映画だ。 ノルウェーという国への知識も乏しいので、ああ、そうだったのかと思うことばかりだ。まだまだ知らないことは多いと痛感する。 若いボクサーとその家族の物語として進む。試合に勝って、恋人にプロポーズして幸福な青年とその家族。だが、一家はまず父と三兄弟が収容所に連行される。収容所での描写は、特別に残虐ではない。正視できる。だが、じわじわと緊張と恐怖と苦痛とが伝わる。 物語が終わった後の、エンドロールの前に、後日談が字幕で出る。ここでの情報量が多く、そして重い。何度も衝撃を受けた。 楽しい映画ではない。体調のいいときに観るのをお勧めする。私は観る夜、高熱を出してしまった。それくらい、ずしんと響く。
21/7/4(日)