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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

みをつくし料理帖

日本映画界に殴り込みをかけ、とてつもない嵐を巻き起こした伝説のプロデューサー角川春樹。角川映画が私の青春でしたと言ってはばからぬ、今や中高年となった元少年は数限りなくいるはずだ。ただ皆さん、角川の監督作となると「うーん」と首を傾げてしまう。『汚れた英雄』や『キャバレー』はともかく、超巨大マスゲームのような時代劇超大作『天と地と』に戸惑ったのもこの世代である。 ところがところが、この2020年に現れた「最後の」角川春樹監督作が、あなどれないのだ。まず、大阪から江戸に出て料理人としての才覚を発揮してゆく松本穂香のまっすぐな演技がいい。そして、かつての親友が、互いの過ごした年月を知らぬまま、巷の料理屋の娘と吉原一の花魁として再会するシーンが忘れがたい。今どき貴重な、濃密な情緒をはらんだ切り返しショットは必見だ。 さらによく見ると、キャスティングに角川映画の卒業生が目立つのも面白い。彼女の料理を批評する戯作者(藤井隆!)の妻として薬師丸ひろ子が登場した瞬間、筆者は言いようのない感動に包まれた。料理屋の主人が石坂浩二と気づいてハッと息を呑んだし、野村宏伸や浅野温子、渡辺典子まで現れるとあっては、これぞ角川映画の集大成なのかも知れない。だから、これが「最後の監督作」ではもったいない!とまで思うようになった昨今である。

20/10/13(火)

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