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水先案内人のおすすめ

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白坂 由里

アートライター

二重のまち/交代地のうたを編む

東日本大震災から7年が経った2018年。震災当時はまだ子どもであり、時間的にも空間的にも距離のあった4人の若者が、旅人として陸前高田を訪れる。風景のなかに身を置き、まちの人々が語り難かった話に耳を傾け、それを(未来の)誰かに伝えるべく自身の言葉で語り直していく。もどかしさが胸に沁みる、対話と継承のプロセスを描いた映画だ。 旅人は、作者である小森はるか(映像作家)と瀬尾夏美(画家・作家)のかつての姿をほうふつさせる。ふたりは、震災後のボランティアをきっかけとして、10年にわたり陸前高田の人々の話を聞き、絵や言葉、映像などで記録し続けてきた。この映画は、そうしたプロジェクトのひとつから生まれている。 旅人たちは、瀬尾が書いた『二重のまち』を朗読する。2031年、かさ上げ工事で新たにできたまちに住む子どもが、地面の下にかつてのまちがあることを知ることから始まる物語。春、夏、秋、冬。亡くなった人々への祈りを込め、歌うように語り継いでいく。旅人たちは、他者の喪失感やさみしさを同じようには受け止めきれないと煩悶しながら、海岸や林や坂道などを歩き、身体で反芻する。表情や仕草に現れる若者たちの逡巡が、まちの人々の心をほぐしていく。わかったふりをせず、丁寧に想像すること。震災に限ったことではないなとも思う。 小森と瀬尾は、水戸芸術館で開催中の「3.11とアーティスト:10年目の想像」、アーツ前橋で開催中の「聴く 共鳴する世界」でも作品を展示。3月6日からポレポレ東中野で特集上映『映像作家・小森はるか作品集 2011-2020』もある。わからないことを、形を変えて幾度もなぞる大切さを教えてくれる。

21/2/25(木)

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