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中川 右介
1960年生まれ、作家、編集者
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
21/10/1(金)
TOHOシネマズ日比谷
よもや、よもやの連続で、二転三転どころではない。 「見てのお楽しみ」としか書けないのだが、「完結編」として、これ以外にはありえようはない、そしてまさかの結末だ。 ヒーローものアクション映画のタブーを破った、大問題作でもある。この物語の是非をめぐっては論争になるだろう。 前作『007 スペクター』を未見の方は、先に観ておいたほうがいい。直接の続編で、マドレーヌとのラブストーリーが物語の中心にある。さらには、ダニエル・クレイグ版ボンド第一作の『007/カジノ・ロワイヤル』のヒロインも、写真だけだが登場するので、彼女がボンドにとってどんな存在だったのかを復習しておいたほうがいい。 と、予備知識はあったほうがいいのだけれど、複雑だが難解ではないので、何も知らないで観ても、楽しめるだろう。 監督のキャリー・ジョージ・フクナガは、その名が示すように日本の血を引いている。そのせいか、冒頭に能面が出てくるし、日本的なインテリアの空間で対決するなど、日本を意識させるが、全体的には、いわゆる日本的な情調は感じない。 英国海軍、英国空軍が全面に出てくるが、劇中で首相は無視される。あれ、いまの英国首相はだれだっけと思うと、納得がいく。優れた娯楽作は現実政治への風刺を忘れない。 映画館の大スクリーンでの公開が可能になるまで待たされた大作だが、待った甲斐はある。 2006年に始まった、ダニエル・クレイグ版ボンドの堂々たる大団円は、映画館で観たい。
21/10/1(金)