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パール兄弟、作詞家、プロデューサーとして、音楽を中心に活動中

サエキけんぞう

ミュージシャン

ジョアン・ジルベルトを探して

伝説のボサノヴァ歌手、ジョアン・ジルベルト。この10年ほど、人前に全く姿を現さなくなり、生きながら神話的存在となっていた。ジョアンに会おうとさまよったジョルジュ・ガショ監督によるドキュメンタリーだ。公開直前に、ジョアン本人が亡くなる、とんでもないタイミングの公開となった。 この映画には実は日本人も絡んでいる。フランス&スイス人のガショ監督がジョアンを知るきっかけは、80年代の東京で日本人に聞かされたことだったという驚き。 80年代中期、バブル前の東京もまた独特で、ジョアンの音楽に通じる妙な「冷たく熱いけだるさ」があった。実に表現が難しい天使のように柔らかいジョアンの歌声とギターの響き。例えば岡崎京子のマンガのようにファジーな微熱、と勝手な説明もしてみよう。捉えがたいその魅力への入り口が、けだるく輝いた80年代の我が街にもあったということは、何とも喜ばしく身近に感じられる。 この映画では、ジョアンの元妻ミウシャや、共にボサノヴァを作り上げた盟友ジョアン・ドナート、黎明期に面倒を見て半ばイヤになり別れたホベルト・メネスカルといった人物が、あけすけにジョアンを語る。そうした逸話がジョアンの音楽の聴こえ方をよりディープにしてくれる。単なる音楽家の評伝ではなく、まるでお伽話の人物のような寓話性を感じさせられ、冒頭から圧倒されてしまうこと請け合いだ。 監督が警告されたように、悪魔的な性格も併せ持っていたというジョアン。底に得体の知れない「憂鬱」を併せ持つボサノヴァ、その優美な魅力の底には、やっぱり魔性が潜んでいるんだ!納得させられながら、鮮やかなエンド・シーンまで持って行かれるでしょう。

19/8/21(水)

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