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水先案内人のおすすめ

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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

SHIMURAbros「Evacuation」

オランダ領キュラソー島。カリブ海はベネズエラの沖にあり、よくカクテルに使われるリキュールの原産地として知られるぐらいだ。だがこの島は、現代史の中で、知られざる大きな価値を背負っていた。 第二次世界大戦中、ナチの迫害を逃れようとした東欧のユダヤ人がリトアニアの日本領事館に駆けつけ、領事杉原千畝が発行した日本のヴィザで脱出に成功した史実は有名だろう。しかしあのヴィザはあくまで「通過ヴィザ」であり、パスポート上の終着地は、もともとオランダ大使館から保証されたキュラソー島だったのである。実際のユダヤ人たちはそんな小島に関心のあるはずもなく、日本から上海に渡り、やがてアメリカやオーストラリアなどへ逃れるのだが、それを承知でこの「終着地」に関心を示したアーティストがいる。近年、映像作品を精力的に発表している姉弟の美術ユニットSHIMURAbros(シムラブロス)の『Evacuation』は、そのキュラソー島の風景やアーカイブ写真をスクリーン上に緩やかに映しつつ、そこにユダヤ人一家の脱出記の朗読を重ねるという作品だ。色彩が鍵となり、「ブルー・キュラソー」と、強制収容所の囚人服である青白ストライプ、いずれにしても「青」が大切な意味を持つ。 古くは黒人奴隷の売買が行われたが、今はオランダ風のカラフルな街並みを誇る、静けさに満ちた島。そこに、あえてあのユダヤ人たちの苛酷な運命を重ね合わせるという映像/音声の対峙の中に、私たちは歴史の幻影を見つめることになるだろう。

20/3/11(水)

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