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時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。

春日 太一

映画史・時代劇研究家

愛のくだらない

野本梢監督は優しい監督だ。世の中に生きづらさを感じている人たちを真っ直ぐに見つめ、その苦しい実態を観る者に訴えかけてくる。 その一方で、恐ろしい監督でもある。その訴えかけは声高なメッセージとして表現されるのではなく、ちょっとしたカットや登場人物の挙動、セリフの中にさりげなくちりばめられている。日常の中にあまりにさりげなく描かれているため、気づかずに通り過ぎてしまうこともある。 ただ、それらはいずれも、そこに問題意識や当事者意識を持っていれば、容易に気づくことができる。つまり気づかずに通り過ぎるということは、そこへの問題意識が鈍いということ。 それこそが野本監督の仕掛ける“罠”だ。“画面の中の物語”として他人事として観ていたところに、突如として「いや、あなたもここにいる加害者たちと同じですよ」と突きつけてくるのである。 そのため、野本作品を観ていると、こちらが試されているような緊張感がある。 今回の作品は、ひとりの女性スタッフを通して映像製作の現場での女性の生きづらさが描かれる。 が、そう思って観ていると、監督の“罠”にはまる。その女性もまた、別の誰かに生きづらさを強いているから。それは今回も自然な流れの中でさりげなく描かれている。 登場人物たちのとるさまざまな行動を“突然”と捉えるか、“必然”と捉えるか。それは、随所にちりばめられた訴えかけにどれだけ敏感に気づけるかで異なってくる。 あなたは、私は、普段からどれだけ他人の傷みに意識が向かっているか……。野本監督に試されてみてほしい。

21/8/19(木)

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