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植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

王の願い ハングルの始まり

昨年の佳作の一本『博士と狂人』は『オックスフォード英語大辞典』が誕生するまでの“言葉を集める物語”だった。同じ“言語”をモチーフにした本作『王の願い ハングルの始まり』はタイトルが示すとおり、ハングル文字誕生までの“文字を作る物語”。ともに文字と格闘した不屈の男たちのドラマだ。 朝鮮第4代国王・世宗の時代。朝鮮には自国の文字が存在せず、上流階級層だけが特権として中国の漢字を使用している。世宗(ソン・ガンホ)は、無学文盲でも容易に学べて書くことができる朝鮮独自の文字を作ることを決意。そこで、低い身分ながら何カ国もの言語に詳しい和尚シンミ(パク・ヘイル)とその弟子たちの協力を仰ぐ。だが王を取り巻く臣下たちはこれに激しく反発。その逆境のなか、世宗大王とシンミは貧民のために新たな文字作りに邁進する。 『博士と狂人』のマレー博士が辞典作りに苦闘したように、既得権の上に胡坐をかいた貴族たちの妨害にあいながらも弱者救済のためにハングル文字を完成させようとする世宗の孤独な戦いに、まず胸打たれる。特筆したい点は多々あるが、怒り、嘆き、憂い、喜び、その一挙手一投足で世宗の内面を浮き彫りにし、生きた人間として観る者の前に現出させたソン・ガンホの変幻・緩急ともに自在な圧倒的演技力を一番に挙げたい。 そして舞台や背景に対する美術のこだわりも凄い。ハングル文字のベースになったといわれる“八万大蔵経”(8万1258枚の経板)が初めてスクリーンに映し出される他、海印寺蔵経板殿、浮石寺無量寿殿、鳳停寺などユネスコ世界文化遺産に登載された文化遺跡地のロケーションにも目が奪われる。監督チョ・チョルヒョンは、「劇中の象徴的な空間を実際の歴史が宿る文化遺産で撮影することを目標にした」と語る。 ソン・ガンホ主演『王の運命-歴史を変えた八日間-』の脚本で映画評論家協会賞 最優秀脚本賞に輝いたチョ・チョルヒョンの監督デビュー作は、『パラサイト 半地下の家族』に勝るとも劣らない傑作だ。

21/5/26(水)

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