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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

海辺の家族たち

ロベール・ゲディギャンの映画が、再び日本の劇場にかかるのはうれしい。かねてからこの監督に好感を持つのは、ほかのどの映画にもテレビ番組にも映らぬフランスを見せてくれるからだ。 風変わりなものを提示するわけではない。ひとつ特別なのは、パリに背を向けて、仲間たちと南フランスで映画を作ろうとする姿勢だ。フランス映画の例外者たるその意思は固い。だがその作品を彩るのは、何げない人たち(そこには当然移民たちも含まれる)の感情の機微と、日常に根ざした風景なのだ。 原題は「ヴィラ」、大きな家だ。マルセイユの西、大理石の切り立つ崖に挟まれたいくつもの小さな入江(カランク)は、今や観光ガイドにも載るぐらいの場所だが、あえてその密やかな集落が舞台に選ばれている。老父の介護と、この美しい家の処置。そんな話題は、奇跡のようなこの土地でも例外ではない。ゲディギャンは地中海をあくまで小さく切り取り、殊更に美しく撮ろうとはしない。そこにいるのは実家で久々に対面した初老の兄妹たち、隣人や若い漁師であり、コミュニティも極小だ。 だがそこに、この映画の意志と豊かさがある。それぞれの感情を抱えたまま、そこにいる全員が、海に向かって黙ってタバコを吸うショットが切ない。後半、難民の子どもたちが入江に漂着するくだりは、南フランスの現実も鋭く示しているだろう。「見に行く南仏」ではなく「生きる南仏」を描くフランス映画の南の良心、ゲディギャンの世界は健在である。

21/5/9(日)

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