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平辻 哲也

1968年生まれ 映画ジャーナリスト

風の電話

この原稿を書いているのは阪神淡路大震災が起こった1月17日。あれから25年。ニュースでは今も震災の影響に苦しんでいる人がいる、と伝えている。昨今、日本では災害が相次いでいる。発生当時は大々的に報じられるが、時が経つにつれ、どうしても風化してしまうものだ。 本作は2011年3月11日に起こった東日本大震災がモチーフ。タイトルの『風の電話』は岩手・大槌町の庭師が庭先に建てた電話ボックスのこと。その後、震災が発生し、「風の電話」は死者との対話ができる場所として有名になり、3万人以上が訪問。そこを訪れる人たちの姿はニュースや報道特集でも取りあげられた。 そんな題材をフィクションの世界で取り上げるのはなかなか難しいことだったろう。メガホンを取ったのは『M/OTHER』『H story』などが海外で高く評価されている諏訪敦彦監督。近年は海外を舞台に作品を撮っており、日本を舞台にしたのは18年ぶりだったという。 震災で家族を失い、ひとり残された高校生のヒロイン、ハル(モトーラ世理奈)。今は広島・呉で暮らしているが、一緒に暮らしていた叔母(渡辺真起子)が病気で倒れてしまう。再び一人になってしまったヒロインは制服姿のまま、生まれ育った岩手・大槌町へ向かう……。 主演のモトーラがいい。モデル出身で映画やドラマで頭角を見せている22歳の若手。完成披露試写会では「家族が亡くなる話は苦手なので、(この映画の)オーディションに行きたくなかった」と率直に語っていた。諏訪監督は即興演出をしながら、俳優陣と映画を作り上げていくスタイル。むしろ、こんなことを言ってしまう女優の方がいいのだろう。 嘘のないモトーラは自分が感じたことを表現者として素直にみせてくれ、それが魅力的。観客はいつのまにか彼女の旅に寄り添うことになる。ヒロインが出会う人々には西島秀俊、三浦友和、西田敏行ら実力派が結集。あの震災を再び見つめ、前を向くきっかけを作ってくれる。万人が今、観るべき作品だ。

20/1/21(火)

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