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水先案内人のおすすめ

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生きのいい日本映画を中心に、大人向け外国映画も

平辻 哲也

1968年生まれ 映画ジャーナリスト

人数の町

大型の新人監督が出てきた。完全オリジナルストーリーによるディストピア映画。同じくモチーフでデビューしたジョージ・ルーカスの『THX-1138』より遥かに面白い。 借金取りから暴力に遭っていた青年、蒼山(中村倫也)が、謎の男(山中聡)に連れられてきたのは、奇妙な町だった。衣食住が保証され、気の合う同士はセックスするのも自由。ディストピアどころか、パラダイスのような町だが、どこかおかしい。 仕事といえば、ネットでの書き込み、別人になりすましての選挙投票。この町では、人数を力に何かのビジネスを展開しているようだ。最初は戸惑いながらも、この町のルールに従う蒼山だったが、妹を探しに来た新しい住民、紅子(石橋静河)との出会いをきっかけに、変化が現れる……。 ディストピア映画といえば、ジョージ・オーウェルの古典SF『1984』の支配者ビッグ・ブラザー的な存在が定番だが、本作には登場しない。あるのは、この町のルールを記した「バイブル」だけ。このバイブルの掟さえ守っていれば、楽チンな生活が送れるというわけ。民主主義の穴をつく、よく練り上げられた「嘘」の理想的世界。しかし、こういうシステムは実は現実世界にも密かにはびこっているかもしれない、と思わせる。 監督は東京大学教養学部表象文化論科を卒業し、CMプランナー、クリエイティブディレクターとして数々のCM、MVを手がけてきた荒木伸二氏。本業のかたわら、シナリオを学び、テレビ朝日21世紀シナリオ大賞優秀賞を始め数多くの賞を受賞。本作は第1回木下グループ新人監督賞・準グランプリ受賞作の映画化。 70年生まれというから、今年50歳。遅咲きの映画デビューとなる。こんな宝が残っていたとは。今後が楽しみ。中村倫也は、目の演技に注目。冒頭とラストでまったく違った目を見せている。本作は下半期の注目作。中村倫也ファンならずとも必見!

20/9/4(金)

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