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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

コレクションする女〈デジタル・リマスター版〉

『コレクションする女』ル・シネマ「エリック・ロメール監督特集上映<六つの教訓話>」(4/23~5/20)で上映。 ヌーヴェル・ヴァーグのなかで最長老ともいえるエリック・ロメールは、日本ではもっとも遅れて、1980年代のミニシアター・ブームの最中に紹介された映画作家であった。『海辺のポーリーヌ』を端緒とする<喜劇と格言劇>シリーズ、90年代の<四季の物語>シリーズと、どれも似たようなテーマ、同じような語り口なのに、まったく観る者を飽かせないロメール・タッチの至芸。しかし、このロメール独特のスタイルがもっとも魅惑的だったのは、60年代から70年代にかけて撮られた<六つの教訓話>だったと思う。そのなかでももっとも私が偏愛するのが『コレクションする女』(66) である。バカンスで訪れた避暑地の別荘で、決して美人ではないが、妙な色気で挑発してくるコケットリーな女(アイデ・ポリトフ)に翻弄されまくるパトリック・ボーショーには、誰もが身につまされるのではないだろうか。 エリック・ロメールは、一見、うわべだけ取り繕った男の下心を、その度し難い愚かさを、疼くような欲望のはかなさを、あたかも定点観測するかのごとく、あるいは昆虫記を記述するごとく冷徹に観察しているかにみえる。しかし、その一方で、ロメールは、多情なエロティシズムを発散する水着姿のアイデ・ポリトフの肢体を時には舐めるように、時には窃視症の患者のように、なでまわすように視姦し尽くすのである。夏の終わりの寂寥とともに、唐突に、さりげなく断ち切られるようなエンディングを迎える時、諧謔に満ちたコント形式で描かれたこの教訓劇の得も言われぬモラルの重力に、したたかに打たれるのである。

21/4/9(金)

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