長編デビュー作『クリシャ』で新人賞を多数受賞し、ジョン・ウォーターズ監督が選ぶ2016年の映画ベスト1に選出。続く『イット・カムズ・アット・ナイト』では、得体の知れない何かにおびえる2組の家族を描く心理スリラーを作り上げるなど、作品を発表するごとに大きな注目を浴びてきたトレイ・エドワード・シュルツ監督による最新作。構想に10年を費やしたという『WAVES／ウェイブス』は、ウォン・カーウァイ監督作『恋する惑星』にインスパイアされた2部構成となっている。製作は、アカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』や、アリ・アスター最新作『ミッドサマー』などを手がけた気鋭のスタジオA24。 第1部は、成績優秀かつレスリング部のエリート選手でもある高校生タイラーが主人公。恵まれた家庭に育ち、何一つ不自由のない生活を送っていた彼が、厳格な父親ロナルドの重圧や美しい恋人アレクシスの妊娠発覚などにより次第に追い詰められていくまでを描く。第2部では、タイラーの妹エミリーに焦点を当て、第1部で起きた“ある事件”のその後を追う。人を傷つけることも、救うこともある「愛」を描く普遍的なストーリーだが、「プレイリスト・ムーヴィー」と評されている通り、物語と密接にリンクしたサントラや、主人公の心理状態に合わせて変化していくアスペクト比、ミュージック・ヴィデオさながらの大胆なカメラワークなどが渾然一体となって、圧倒的な「映画体験」を観客にもたらす。 テーム・インパラやアニマル・コレクティヴ、タイラー・ザ・クリエイター、ファック・ボタンズなどの名曲がガンガン流れるので音楽付きはたまらないものが。中でも、フランク・オーシャンとレディオヘッドの使われ方が秀逸で、ファンならずとも心打たれるはずだ。

20/7/7(火)