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水先案内人のおすすめ

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演劇鑑賞年間300本、記者歴40年のベテラン

大島 幸久

演劇ジャーナリスト

星屑の町

水谷龍二が作・演出の舞台版『星屑の町』シリーズが本多劇場で2016年に最終公演となったのは本当に残念で寂しくなった。その後、再演された公演は見逃したが、最終公演の完結篇を観終えて、シリーズの復活を期待するコラムを書いたのをこの映画版を観ながら思い出していた。 映画化されるとは想像外だった。杉山泰一監督のこの作品では水谷は原作のみ。「山田修とハローナイツ」の面々は、しかし、皆が何より健在で元気に地方を廻っているのが嬉しかった。 スナックで働く愛ちゃんを演じた「のん」がスクリーンの中で新鮮に見えた。田舎町を脱出し、グループに入りたい。そこで大好きな歌で歌手になりたい、というのがひとつのストーリー。もうひとつのストーリーがボーカル、しんちゃんの独立。これを太平サブローが何度も歌う姿で表現した。 このシリーズはいつもそうだが、メンバーの喧嘩が断えない。なにせ、人生の挫折を繰り返してきた中年、初老が寄り合っているムード歌謡コーラスのグループ。売れない地方廻りでも多少の夢はあるからだ。ぶつかり合いだから、哀しみは深いのである。ふたつのストーリーが喧嘩の種だった。 何といってもクスッと笑えて、楽しく見えるのがバックコーラスの歌唱である。舞台では菅原大吉が傑作だった。「ワワワワッ、ワワワ!」と、ボーカルの横に並んで歌う。その左端か右端でリズムを取る足の形が何とも言えない面白さだった。映画では渡辺哲がその役目。太平が歌う「中の島ブルース」の場面でのそれは絶対見逃せない。 「宗右衛門町ブルース」の最中、突然、停電になる。暗闇の中で懐中電灯の光で写り始めたメンバーの顔のアップには大笑いした。“笑わない男”ゴローちゃんの有薗芳記はやっぱり舞台の怪優の本領発揮だ。 さらに小宮孝泰、朝倉伸二、でんでん、戸田恵子。舞台に生きてきたクセ者俳優が集まり、歌う場面は生き生きとしている。面白うて、やがて哀しき『星屑の町』。演歌好き、歌謡曲ファンには堪えられないB級傑作ではある。

20/3/10(火)

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