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水先案内人のおすすめ

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話題作、アート系作品を中心に

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

きこえなかったあの日

今村彩子監督は、見る者の目をひらくドキュメンタリー作家だ。『Start Line(スタートライン)』『友達やめた。』の2作では、自分の悩みととことん向き合うことで、弱いようで強く、強いようで弱い人の複雑さ、豊かさを浮き彫りにしてみせた。今度の『きこえなかったあの日』はその2作と構えはまったく違うけれども、やっぱり視界を広げてくれる。 東日本大震災直後から宮城県に足を運び、つくった一本。災害発生直後に、避難中に、そしてその後の生活で、耳のきこえない人はどんな困難に直面し、どんな支えを必要とするのか。現状はどうか。「孤立」の問題を中心に丁寧に見つめていく。今村監督自身、生まれつき耳がきこえず、東日本大震災発生当初のテレビニュースでなぜ海が映っているのか理解できなかったことが出発点にあったという。 熊本地震、西日本豪雨、さらにはコロナ禍の困難も取材しているが、見るほどに浮かび上がってくるのは、支えられる人は、支える人でもあるということ。それは監督自身が撮影を通して実感していったことでもあるのだろう。つながる場をつくることが実は双方の日常を豊かにしていく。観客もまた、そのことを、この映画に登場する人々の姿、そしてそれぞれの笑顔を通して、体感していくのである。

21/2/24(水)

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