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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

台湾、街かどの人形劇

ホウ・シャオシェン監督の「悲情城市」や「恋恋風塵」で脇役ながら印象深い演技を披露したリー・ティエンルー(李天禄)と言えば台湾伝統芸能の布袋戯(手遣い人形劇)の初代人間国宝でもありました。その息子で2代続けて人間国宝となったチェン・シーホァン(陳錫煌)に密着し、彼のワザと伝承することの困難さ、さらに父との葛藤まで描いたドキュメンタリーです。 人形を手で持ったり、指を人形の中に差し込んで操る布袋戯。13歳から70年以上も公演を続けているチェンが操ると、ただの人形に見えた物体に生命力が吹き込まれていくのを感じます。筆で字を書き落款印を押す動作、キセルをくゆらす人形の恍惚とした表情、さらに孫悟空のように空中で回転し着地する軽快な動き。操る人形をうっとりとした目で見つめる表情は彼自身が人形と一体化しているとしか思えません。 芸を極めた彼が長年わだかまりを払しょくできなかったのが父の存在でした。父親は1998年に亡くなるまで一度も息子を褒めることがなかったそうです。そのわけは意外なところにありました。単調となりがちな映像を緊張感をもって見続けることができるのは弟子をはじめとする登場人物の内面に光を当てているからでしょう。 政府の台湾語弾圧や新しい娯楽メディアの登場といった布袋戯を取り巻く社会の変化にも目を配り、貴重な記録映像に仕上りました。 風前の灯とも言われた布袋戯の歩みを描いた本作品。その制作意図を問われ、ヤン・リージョウ(楊力州)監督は「映画という最も華やかなメディアを使って布袋戯と別れを告げるのです」と答えたことがあります。ところが作品は監督の予想を超えドキュメンタリーとしては異例のヒットとなり、伝統芸能の保存に向けて新たな動きも出ています。命を吹き込まれた人形のチカラでしょうか。

19/11/28(木)

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