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水先案内人のおすすめ

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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

伊庭靖子展 まなざしのあわい Yasuko Iba, A Way of Seeing

クローズアップで描かれた寝具やクッション、染付磁器。陶器の入ったアクリルケースが生み出す複雑に交差する周囲の風景、そしてカーテンのような布が奥に置かれた陶器を遮っている仄暗い空間。いずれも作家本人が撮影した写真を元に描かれた油彩作品だ。自己の主観をできる限り排除する手段として写真を使うと語る伊庭。その制作方法もまた主観の痕跡(=筆触)を残さないように、筆で絵の具をトントン置いていき、その上に絵の具の層を重ねることの繰りかえしだという  伊庭が目指すのは、もののリアルな描写ではなく、ものを取り巻く空間を満たす光の質感を定着することだ。光そのものは目に見えないが、空間にものが存在することでさまざまな光の「質」を生み出す。私たちの目はこうして得られたいくつもの「質」を通して、無意識のうちにものとの距離やその時々の行動に必要な情報の取捨選択を行っている。伊庭の作品は誰もが無意識のうちに体験している「見る」行為の本質へと私たちを誘ってくれるのだ。 さらに今回は「風景」という新しいテーマで15年ぶりに取り組んだ版画作品、そして立体視を用いた初の映像作品も展示されている。版画作品は、ピンクと緑の2色の点描画法を採用。移ろいゆくグレートーンの揺らめくような視覚効果は夢の中の情景を思わせる。ただし、残念なことに私には立体視映像が見えなかった。再トライしなくては……。

19/9/6(金)

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