これが日本での初めての正式公開作となるスペインのハイメ・ロサレス監督の長編第6作は、冒頭から観る者を惑わせる群像ドラマだ。 主人公は自分の父親を捜し当てようとしている女性画家ペトラ。ところが全7章構成の物語は導入部となる第1章をすっ飛ばし、いきなり第2章から幕を開ける。そうして現在と過去を行き来する映像世界は、常に緩やかに動き続けるカメラの視点からして謎めき、主要キャラクター8人の葛藤や秘密をパズル的なミステリー劇のように解き明かしていく。 苦悩の果てに自らの命を絶つ者、耐えがたい憎しみを暴発させる者。死者が続出する異様な展開にもかかわらず、映画は現代の神話のごとき厳粛さを漂わせ、最終章へと突き進む。数奇な運命に翻弄されるヒロインが、最後に行き着く“境地”にも心揺さぶられる1作だ。

19/6/29(土)