Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

ギャラリーなどの小さいけれども豊かな展覧会・イベントを紹介します

白坂 由里

アートライター

Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる

展覧会タイトルは、ジョン・レノンのアルバム『Walls & Bridges』(邦題『心の壁、愛の橋』)から。創作や生きることにおいて、自分や何かとの約束を守った5人のようにも思える。 とりわけ、ズビニェク・セカルの作品とシルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田の作品による聖堂のような空間が印象深い。反ナチス運動で収監されながら生き延びたセカルの、不条理を表し、魂を鎮めるような彫刻作品。それらと響き合うシルヴィアのドローイングや彫刻。彼女は、制作と祈りを同義として、家事や子育ての傍らで制作を続けるも、発表や売買に関心がなく、作品を完成とみなすこともなかった。彼女が病で亡くなる前に、彫刻家の夫•保田春彦が説得し、没後、遺されたドローイングを組み合わせて額装した作品もある。 また、リトアニアからニューヨークに亡命し映像作家になったジョナス・メカスと、ダム湖に沈む前に岐阜県徳山村を撮影して回った「カメラばあちゃん」こと増山たづ子は、日常を祝福するかのようにありふれた風景を記録している。増山は、戦地から夫が帰還したら写真を見せたくて始めている。村民は笑顔で写っているが、外向的なスナッパーというわけではなく、「友だちの木」と呼ぶ木と対話することで孤独を慰めるような面もあった。 一方、老人ホームで水彩画を描き続けた大分県の東勝吉も、自然と対話する人だった。木こりだった頃、素晴らしい木に出会うと「国の宝だから」と切るのをやめたという。最後には「前の絵を汚すから」と描かず、その前に描いたもので終幕とした。 迷いごとが多い昨今、気持ちがシンプルに整う展覧会だ。

21/8/18(水)

アプリで読む