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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

真夏の夜のジャズ 4K

4Kでよみがえった古典的な傑作『真夏の夜のジャズ』は何度目のリバイバルになるのだろうか。 1958年にロードアイランド州ニューポート市で開催された「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」を撮ったこの映画は、いまだにジャズのドキュメンタリーとして頂点に君臨している。『ライフ』や『エスクァイア』の写真家だったバート・スターンが、ヌーヴェル・ヴァーグに匹敵する大胆でみずみずしい映像センスを駆使して、ミュージシャンの魅力をあざやかにとらえているからだ。 セロニアス・モンクが『ブルー・モンク』を弾き始めると、キャメラはニューポート港外の風景へと転じ、白い帆をはらませたヨットのレースを映し出す。青い海原との美しいコントラストで、モンクのピアノソロはそのヒップな味わいを一層深める。 クライマックスはアニタ・オデイが『スィート・ジョージア・ブラウン』と『二人でお茶』のナンバーを歌うシーンだ。黒地に白い羽飾りの帽子をかぶったアニタ・オデイのソバカスだらけの貌がズームレンズを使って、映し出される魅惑の一瞬。ズームの効果は観客たちの歓喜に満ちた表情を映し出すシーンで最高度に発揮される。抱き合うカップル、興奮して泣き出し、踊りだす女性たちのなんと魅力的なことだろう。この映画は、ステージのジャズメンと観客との親密な一体感をドキュメントしている点こそ特筆すべきだ。 チコ・ハミルトン・クインテットの『ブルー・サンズ』が始まる。と、ここで新人エリック・ドルフィーの瞑想的なフルートの音色がひときわ幻想的な雰囲気を現出させる。 『真夏の夜のジャズ』は、赤狩りがようやく終息に向かい、激動の60年代が始まる直前のアメリカの、一見、平穏な小春日和のような時代の断面を、愛惜を込めて切り取っているがゆえに、とてつもなく貴重なのである。

20/8/20(木)

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