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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

コロンバス

アメリカの人口約4万人ほどの小さな町コロンバス。モダニズム建築の宝庫として知る人ぞ知るこの町で男女2人の出会いと別れを描いた作品です。こう紹介すると「2人の関係に建物が絡んでくるお話では?」と深読みされる方もいらっしゃるでしょう。たしかに次々と紹介される銀行や図書館、新聞社、教会、病院等の建物は端正で美しく、でも何か言いたげに鎮座しています。しかも偶然知り合った2人が建築の解説にうんちくを傾けるので、まるで建築学のドキュメンタリーを見ているような気がしてきます。ですが、観客はやがてこの作品の本当の姿が浮かび上がってくることに気が付くでしょう。それは小津安二郎に敬服する韓国系アメリカ人のコゴナダ監督が小津にオマージュを捧げた作品なのだと。 小津作品の脚本家として知られる野田高梧にちなみ“コゴナダ”と名乗る同監督。もうこれだけで小津への敬愛は相当なものです。アカデミアの世界で「小津に惹かれる謎、彼の映画の根底に流れる普遍性」について研究してきたコゴナダ監督は、学術的に小津作品を極めるよりも小津と同じような感性で映画を撮りたいと思い始めます。それが初長編の本作につながりました。 こんな作品です。建築学者の父が出張先のインディアナ州コロンバスで倒れたため、韓国に移住していた息子のジンが駆けつけます。父との確執もあり早くこの街を立ち去りたいジンが出会ったのは、彼とは逆に建築の勉強を深めるという夢を諦め薬物依存症の母の看病を理由にこの町に留まる図書館員のケイシー。どこまでも対照的な二人の運命が交錯し、「建物には癒し効果があるか」など対話を繰り返すことで、それぞれの新しい道に向かって歩き出すことを決心します。 奥行きを生かした画面の構図や、間の取り方など小津を思い起こすシーンを慎ましやかに繰り返しながら、コゴナダ監督は冷たい建築物に向き合い静かに涙を流す女をしっかりととらえます。もしかしたら世界の映画人とファンをとりこにしてきた小津映画を決定づけるものはこの「美しき静謐」なのかもしれません。

20/3/10(火)

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