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佐々木 俊尚
1961年生まれ フリージャーナリスト
家族を想うとき
19/12/13(金)
ヒューマントラストシネマ有楽町
社会問題を描いたらこの人以上にはいない、というケン・ローチ監督作品。フランチャイズや業務委託で雇用関係はないように設定し、労働基準法から逃れるという悪質な手法は日本でも問題になっている。本作は宅配便のドライバーが題材になっているが、日本でもまさにそういう手法で個人事業主としてドライバーと契約し、トラックを売りつけて後は知らん顔…という業態の会社があった。そしてこの会社の運転手が不払いに抗議して営業所に侵入し、社員を人質にとったうえにガソリンを撒いて火をつけ、3人が亡くなり40人以上が負傷するという凄惨な事件が、2003年に名古屋で起きている。 本作はそういう凄惨な話ではない。しかしだからこそ、主人公とその家族がどんどん苦しくなっていき、行き場がなくなっていく様子が実にリアルで、観ていて本当につらい。その状況を救っているのは家族の愛なんだけれど、その愛でもいかんともしがたい社会の状況というローチ監督の設定する構図に、本当に切なくなる作品だ。
19/12/9(月)