何の予備知識もなく観たが、『海辺の家族たち』は本当に心にしみるいい映画だった。監督は自身が生まれ育ったマルセイユ周辺を舞台に、労働者階級や移民など社会的に弱い立場の人々の人生を温かな眼差しで見つめ続け、〈フランスのケン・ローチ〉と称えられているというロベール・ゲディギャン。本国で半年以上のロングランとなった大ヒット作『マルセイユの恋』も全くノーマークだったが、美しい入り江沿いにあり、かつては別荘地として賑わったものの、今ではすっかり寂れた町にある小さなレストランをベースに描かれる突然倒れてしまった父と、レストランを継いだ兄とリストラされて世の中を悲観的に見ている弟と、父が倒れたために20年ぶりに故郷の町に帰ってきた人気女優がつきあいの長い町の人々や弟の婚約者も巻き込んで進んでいく物語は、とても静かで、心に残る台詞も含めて独自のテンポ感があり、物語の中に完全に引き込まれてしまった。満点をつけたい気持ちになるフランス文芸映画の秀作だ。

21/5/12(水)